
昨今、企業が生成AI(LLM)を活用する事例が増えるなかで、エージェントを活用したRAG(Retrieval-Augmented Generation)の概念が注目を集めています。
とりわけ、複数のデータソースを扱えるエージェントを使った「Agentic RAG」が登場したことで、さらに柔軟かつ自律的な情報活用が可能になってきました。一方、エージェントの真価を最大化するには、企業の内部データが「ハイコンテキスト」な形で整理・統合されている必要があると考えています。具体的には、複数の業務システムやナレッジ情報を横断的に扱えるリレーショナルデータベースが大きな役割を担うと思います。
[参考] weaviate 社の「What is Agentic RAG」
本記事では、weaviate社のこの記事をベースにしながら、「エージェントと多様なデータソースの連携」「企業内のリレーショナルデータベースがハイコンテキストであるべき理由」「今後企業がとるべきアクションや展望」について、弊社なりの視点から整理してみました。あくまで一つの意見としてお読みいただければ幸いです!!
1. 複数のデータソースとエージェントの活用
従来のRAGでは、外部知識として使うデータソースを「ひとつのベクターデータベース」に限定していました。しかし、実際の業務や個人の利用シーンを考えると、「個人のメールやファイル」「企業内の既存データベース」「業界情報」「ウェブ検索結果」「SaaSなどの外部サービスAPI」など、数多くの情報源に触れる機会があります。
Agentic RAGでは、エージェントがそれら複数の情報源へ同時にアクセスし、「今はどのソースが最適か」を自律的に判断します。たとえば以下のような形です。

個人のデータをソースにするエージェント
個人のローカルファイルやスケジュール、メール履歴などを参照し、ユーザーの文脈に合わせた回答を生成。
企業内のパブリックデータをソースにするエージェント
社内で共有されているマニュアルやFAQ、ドキュメント、ナレッジベースなどを参照し、適切な情報をピックアップ。
業界のリサーチデータをソースにするエージェント
業界標準のリサーチデータや公開情報、特定サイトのAPIなどを活用して、専門性の高い回答を補強。
Web検索やSNSなど外部をソースにするエージェント
リアルタイムで検索をかけたり、SNSのトレンド情報を取得したりして、最新動向を取り入れたアウトプットを行う。
SaaSなどの外部サービスと連携するエージェント
Slackやチャットツール、プロジェクト管理ツール、カレンダーAPIなどにアクセスし、メッセージ送信やスケジュール登録などのアクションも自動化する。
複数のデータソースを「マルチエージェント」で使い分けることで、ユーザーの要望に応じて的確な情報を引き出し、さらにツールと連携して実行まで行えるようになります。
最終的には、人手を挟まなくてもPC上の操作や外部APIの呼び出しまで完結させる「ほぼノータッチ」なワークフローも実現できる気配がしてますね。
2. ハイコンテキストでリレーショナルデータベースを保持する意義
複数の情報源にアクセスできるAgentic RAGは非常に便利ですが、実際にビジネスで活かそうとすると、やはり「企業内データの管理状態」が重要だと思います。たとえば、古いシステムや部門ごとにバラバラなデータ構造が混在していると、せっかくエージェントが動いても正確かつ網羅的に情報を取得しづらくなります。
そこで鍵となるのが、企業が自社の業務データをハイコンテキストなリレーショナルデータベースとして整備しておくことです。ハイコンテキストとは、データそのものだけでなく、その背景となる意味や関連性、ビジネスロジックなどもあわせて構造的に管理されている状態を指しています。
ハイコンテキストなリレーショナルDBを持つメリット
全社視点でのデータ連携
部署ごとに独立していたデータが相互に関連づけられることで、エージェントは「横断的な文脈」を把握しやすくなるんじゃないかと思います。たとえば売上データと在庫情報、顧客データとサポート履歴などをひとつの文脈で結びつけることで、複雑な質問への回答や自動タスクが可能になるはずです。
高精度な推論と回答
データの相互関係や意味づけが明確になっていると、エージェントが誤った関連づけをしてしまうリスクが減ると思います。通常のテキスト検索ではわからない隠れた関係を見つけ、より正確に推論しやすくなります。
権限管理・セキュリティの一元化
部門やユーザーごとに閲覧可能なデータ範囲をコントロールしやすくなると考えています。ベクターデータベースに加えてリレーショナルデータベースが厳格な権限管理を持っていれば、RAGにおいても安全かつ効率的なデータ活用が実現されるのではないでしょうか。
ビジネスプロセスの自動化が進めやすい
ハイコンテキストなリレーショナルDB上にある業務データと、外部APIやSaaSを組み合わせることで、見積発行から在庫確認、発送指示などの一連のフローをエージェントが自動化しやすくなると思います。
3. 企業活動やビジネスモデルへの影響
Agentic RAGが普及し、企業が高品質なデータ基盤を整えると、どのような影響があるのか気になるところだと思います。
意思決定のスピードアップ
これまでは各部署が持っているデータを、人がシステムごとにアクセスして照合・分析してきました。今後はエージェントが短時間で多種多様なデータ源から情報を引き出し、レポートや提案をまとめてくれるため、意思決定のリードタイムが大幅に短縮される可能性があるんじゃないかと思います。
部門間の情報シームレス化
データがリレーショナルでつながっていると、エージェントが壁を感じずに情報を横断できます。部門間のコミュニケーションや業務の連携がよりスムーズになることで、新しいサービスや製品開発のシーンでも、アイデア出しやカテゴライズの場面で役に立つ可能性が高いと感じています。
人材の役割変化
反復的な情報検索や報告資料の作成などはエージェントが代行してくれるようになるため、人間はより戦略的な思考や創造的な業務にフォーカスできるようになるんじゃないかと思います。一方、データを整備したり、エージェントを正しく導くための知識やプロンプト設計も重要なスキルになるんじゃないかと考えています。
企業文化やガバナンスの再構築
エージェント活用には、データのオープンさと適切なアクセス制御が同時に必要だと感じています。これまでのように部署ごとに閉じた情報を持つ体制では最大の効果が得られず、ガバナンスやコンプライアンスの観点から新たなルール整備も必須だと思います。
4. 今後の展望と弊社なりの考え
Agentic RAGがさらに普及し、企業のデータ活用環境が整うと、私たちが「業務の進め方」をイメージするうえでも大きな変化が起きそうだと思います。たとえば、今までは各部署ごとにデータを保管していて、必要なときには担当者が自分のシステムから情報を引き出し、複数の書類を突き合わせるようにして分析していました。そのため、意思決定までに時間がかかり、調整が必要になるケースが多かったと感じています。
しかし、エージェントが自動で複数のデータを横断的に参照してレポートや提案を作成してくれるようになると、決裁に必要な情報がスピーディに揃うため、意思決定のスピードは格段に上がるんじゃないかと思います。さらに、リレーショナルデータベースがきちんと整備されていれば、エージェントが部署ごとのデータの壁を感じることなく必要な情報を見つけ出せるので、部門間の連携もよりスムーズになるはずです。結果として、新しいサービスや製品づくりの際に「データを探すのに手間取る」という悩みが大きく減るだろうと考えています。
このように業務が「エージェント任せ」になっていくと、人材の役割も変わります。これまでは膨大な資料づくりや細かい検索・分析に追われていた人が、その時間をクリエイティブな発想や戦略的判断に使えるようになります。一方、エージェントを正しく使いこなし、望む結果を得るには「どう指示すれば適切な情報を取得できるか」というプロンプトの設定や、データを整理・管理する知識が重要になるんじゃないかと思います。そこで、新しい技術を理解して自社向けに最適化するスキルが求められるようになるのではないでしょうか。
さらに、エージェントがいろいろな情報を引き出せる分、企業文化やガバナンスも再構築が必要になってくると思います。たとえば「社内のどこまでデータを共有するか」「アクセス権をどう設定するか」といったルールを明確にし、従業員全体で共有しておかないと、情報漏洩などのリスクも高まりかねません。エージェントのパワーを最大化するには、オープンなコミュニケーション体制と同時に、厳格なセキュリティやコンプライアンスの仕組みを整えることも欠かせないと感じています。こうした取り組みを進めることで、エージェントが企業全体の生産性を高め、より大きな価値を生み出す未来が見えてくるんじゃないかと思います。
5. 今から大事にできること
最後に、私たちが「企業として今から取り組んでもいいのでは?」と思うことを、いくつかご紹介しておきます。もちろん、これはあくまで弊社なりの私見ですので、絶対の正解というわけではありません。とはいえ、Agentic RAGの可能性を考えると、少なくとも頭の片隅には入れておきたいポイントかなと感じています。
まずは、やはり社内にあるデータの棚卸しだと思います。いろんな部署やシステムに散らばったExcelファイルやCSV、さらにはレガシーなデータベースなどを一度リストアップし、「どの情報が価値を生むか」「どれをどう結びつけると意味があるのか」を整理してみるのが最初の一歩です。もちろん、一気に全部をリレーショナルDBに移すのは大変ですから、段階的に少しずつ移行していくのが現実的かもしれません。大きなビジョンを持ちながらも、小さく始めて学んでいく姿勢が大切だと思います。
続いて、メタデータやビジネスルールの整理も大事だと考えています。顧客IDと取引IDの紐づけ、製品IDとの関連づけなど、実際にエージェントが「このデータはどういう意味でつながっているのか」を認識できるよう、裏側の情報をきちんとまとめておく必要があるんじゃないかと思います。これをやっておくと、単なる検索だけでなく、高度な分析や自動推論が可能になってくるはずです。
また、エージェント活用を想定したAPI設計やセキュリティ対策も欠かせないと感じています。そもそも「どのデータをどの範囲までエージェントに見せるのか」を決めるためには、入り口であるAPIをしっかり設計する必要があります。それに伴って、アクセス権限をどう設定し、監査ログをどう残すかという仕組みづくりも重要だと思います。誤用や情報漏洩を防ぐためにも、このあたりを後回しにせず、早い段階から検討することをおすすめします。
さらに、エージェントに与える指示(プロンプト)の設計や運用ガイドラインも準備しておきたいと思っています。Agentic RAGの土台が整っても、エージェントに対して的確な指示を出せないと、思わぬ挙動をしてしまうリスクがあるんじゃないかと考えています。なので、社内で使うときのルールや基本的な使い方を共有しつつ、定期的にレビューしたり改善したりするサイクルを回すと良いでしょう。
最後に、いきなり全社的に導入するのではなく、小規模のPoC(概念実証)から始めるのをおすすめしています。まずは特定の業務フローやプロジェクト単位で試してみて、得られる成果や発生しそうな課題を洗い出し、それをもとに次のステップへとつなげていくイメージです。そうすることで失敗のリスクを抑えながら、着実にノウハウを蓄積していけるんじゃないかと思います。
まとめ
Agentic RAGの登場によって、従来の「ベクターデータベース1本勝負のRAG」から大きく進化が見込まれており、複数のエージェントが連携し、必要に応じて社内外のさまざまなデータソースやツールを活用することで、より正確で高度な意思決定が可能になると思います。
ただし、そのためには企業側が自社データを丁寧に整備し、リレーショナルデータベースにおいてハイコンテキストに扱える状態をつくっておくことが重要ではないかと考えています。データの質と結合、メタデータ管理、権限コントロールなどを一体的に考え、エージェントの自動化を後押しする高性能な環境を整えるのが、これからの時代の勝ちパターンだと感じていますし、そのために企業の業務データベース構築を支援しています。
とはいえ、本記事の内容はあくまで一つの見解であり、すべての企業や業界に当てはまる「絶対的な正解」ではないと思います。自社の状況や目的に合わせて柔軟に取り入れ、必要に応じて専門家のサポートを得ながら進めることをおすすめします。
今後、Agentic RAGと企業のデータ管理手法がどう進化していくのか、ぜひ一緒にウォッチしていければと思います!
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