今回のポイント
・CRMを全社データベースとして活用するメリットとデメリット
・導入コストや運用ルール整備などのリスクが存在
・既存システムとの連携とBPR(業務プロセス見直し)の重要性
・目的意識と継続的な運用改善が成功のカギ
近年、顧客情報の管理から一歩進んで、CRM(顧客管理システム)を企業データベースとして全社で活用しようという動きが加速しています。たとえば、kintone(キントーン)の業務データベース機能、Zohoのテーブル(Table)機能、HubSpot(ハブスポット)のHub DB機能、SalesforceのLightning Datatableなどが代表的で、営業データだけでなく、案件管理や在庫情報、従業員データといった社内の多様な情報まで一元化できるとあって、現場から経営層まで「便利そうだ」と期待が高まるのも無理はありません。
しかし、導入後には思わぬ壁に直面することも少なくありません。本記事では、管理職の方が抱えがちな具体的な悩みを交えながら、CRMを企業データベース化するメリットとデメリットを紹介します。
1. CRMを全社データベース化する“業務効率化”の理想と現実
◼︎理想:一元管理による業務効率化
CRM(Customer Relationship Management)ツールは、本来は顧客情報の一元管理が目的です。見込み顧客や既存顧客とのやり取りを可視化し、担当者間で情報を共有することで、営業効率を高めることが狙いです。
- 部署横断で顧客情報や案件状況を把握できる
- 現場と経営が共通の指標を使って売上予測やパイプライン管理を行える
- 行動履歴の蓄積により、データドリブンなマーケティング・営業施策を実施できる
企業の成長戦略の軸として、こうした「理想的な姿」を描いて導入されるケースが少なくありません。
◼︎現実:全社横断を想定するとシステムが複雑化
しかし実際には、CRMを単なる顧客管理以上の役割――すなわち全社データベースとして使おうとすると、思わぬ問題が生じることが多いです。具体的には以下のような声が聞かれます。
- 「顧客管理以外の情報(在庫、物流、勤怠など)も一元管理したい」 → CRM自体の拡張機能や外部ツール連携が増え、設定や運用ルールがどんどん複雑に
- 「誰がどのフィールドを入力するのかが不透明」 → 入力ミスや入力モレ、重複入力が頻発
- 「機能を使いこなす教育リソースが足りない」 → 便利なはずの分析機能を使いこなせず、結局Excel管理に逆戻り
結果として、「システムが増えてかえって混乱した」「データが一箇所に集まっているはずが、バラバラ感は変わらない」といった不満につながってしまいます。
2. CRMを企業データベース化するメリット
最初に、実際に数多くの企業が感じているポジティブな効果を整理しましょう。CRMツールにはもともと顧客情報の集約・分析機能が備わっており、それをさらに拡張した全社管理に取り組めば、多くの可能性が広がります。
◼︎顧客情報だけでなく“あらゆるデータ”の一元管理
- 部署単位でバラバラに運用していた情報を一本化し、最新データを全社で共有
- 案件進捗や在庫状況、勤怠データなどを一元化すれば、レポート作成や各部署連携がスピードアップ
◼︎分析機能による“見える化”と戦略立案
- RFM分析や各種ダッシュボード表示を活用し、顧客・販売データから多角的に施策を立案
- マネージャーや経営層がリアルタイムで数値をチェックでき、素早い意思決定を実現
◼︎クラウド化によるどこでもアクセス
- 外出先や在宅勤務でも同じデータベースにアクセスし、タイムリーに情報更新が可能
- テレワークの普及に伴い、マルチロケーションで働くチーム同士がスムーズに連携できる
3. それでも生じるデメリットと注意
導入コストがかかる
CRMを全社データベースとして本格運用するには、
- 導入初期費用(オンプレミスの場合:サーバー構築費など)
- クラウド型の場合:月額利用料
といったコストが発生します。無料プランを提供するCRMもありますが、本格的なデータ分析や大規模運用を想定すると、有料プランの利用が前提になることが多いです。
また、自社に最適化するためのカスタマイズ費用や外部コンサル費用も考慮する必要があります。単に「安いプラン=使いやすい」ではないため、しっかり要件を洗い出し、投資対効果がプラスかどうかを見極めることが重要です。
運用ルールの整備が必要
せっかくCRMを導入しても、運用ルールが整っていないと全社員が使いこなせず失敗してしまいます。
- 入力項目や入力タイミングの基準を共有しないまま運用を始める
- 部署によって使う項目がバラバラ、または重複
- 抵抗感を持つ社員への研修不足
このような状態では、誤ったデータや重複データが蓄積し、データベースの品質が下がってしまうため、効果を最大化できません。定期的な研修やルール見直しを行い、運用を改善していく姿勢が不可欠です。
4. CRMを全社データベース化する前に押さえておきたいポイント
まずは業務プロセスを見直す
全社的に新しいデータベース運用を始めるならば、「業務プロセスが本当にそのままでよいか」を改めて検討しましょう。
- データが重複管理されていないか
- 入力や承認フローに非効率なステップがないか
- どのタイミングで誰がどんな情報を参照するべきか
ツールを導入する前に、こうした業務設計をきちんと行うことで、運用ルールや入力項目を必要最小限に絞り込むことができます。
システム連携と“分散データ”へのアプローチ
企業によっては、すでに営業支援、勤怠管理、在庫管理など、個別のシステムが稼働している場合もあるでしょう。
- 無理にCRMに全部を詰め込むのか、それとも分散システムのままAPI連携を組むのか
- 既存システムを統廃合したいが、過去データの移行が大きな負担
ここでの方針により、導入コストや運用体制、従業員の抵抗感が大きく変わります。拡張や移行に伴うコストを事前に試算しておくことも重要です。
5. まとめ:全社的なデータ管理を成功に導くために
CRMを企業データベース化する取り組みは、理想的には顧客情報や社内情報を一元化し、分析と共有をスムーズにする強力な武器となります。しかし、「導入コスト」「運用ルールの整備不足」などの懸念事項を放置すると、かえって現場の負担やコストばかりが増えてしまう可能性があります。
成功のためには、業務プロセスを見直すBPRと、現場の使い勝手への配慮が不可欠です。現場や経営層双方の意見を吸い上げ、導入前から入力ルールや運用体制を明確にしておくことで、メリットを最大化し、デメリットを最小化する道筋を描けるでしょう。
もし「既に煩雑化が始まっている」「どこから手をつけてよいか分からない」という場合は、企業の成長に不可欠な“データ活用”を実現するために、まずは現状の課題を洗い出し、システム導入と業務改革を並行して検討してみてはいかがでしょうか。
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